健太郎

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 どうして離婚しないの?  幾度となく、私は父にそう尋ねた気がする。その度に、父は困った顔で「離婚する理由がないからなぁ」と言うんだ。  母が、父方の祖父母の農業を手伝うと鹿児島県伊佐市に行ってから、もうすぐ4年が経つ。毎年夏になると父とともにこの伊佐市にやって来るけれど、昔ほど、母に会うのが楽しみではなくなっていた。滞在期間が充実すればするほど別れがつらくなるのを知っていたし、何より、どうやって母に甘えたらいいかがわからなかった。私の母の記憶は、小学5年生のままで止まっている。 「佳乃(よしの)ちゃん、よく来たねぇ」  鹿児島空港に降り立つと、おじいちゃんが車で迎えに来てくれていた。 「腰が悪くてね、荷物を持ってやれなくてごめんねぇ」 私のスーツケースを見て、おじいちゃんは申し訳なさそうに言った。「別にいいよ。私も子供じゃないんだし」とだけ返して、荷物を車に詰む。  車は運転できるのに、農業は出来ないってどういうことなの?  初めてここに来た時、父にそう尋ねたら、父はやっぱり困ったような顔をした。農家をしていた祖父母はとても仲が良くて、理想の夫婦だと思っていた時期もあったけれど、揃って体を悪くするほど仲良くなくてもいいんじゃないか。母を奪われてからはどうにも、反抗的な私が顔を出す。 「俺が運転するよ」  父が運転席に乗り込み、おじいちゃんが助手席、私が後部座席に乗り込む。白い軽ワゴンは、どこか土っぽくて湿った匂いがした。少しの段差でも、お尻が大きく跳ねる。  父とおじいちゃんが会話をするのをバックミュージックのように聞き流しながら、私はGoogleマップで現在位置を表示した。なんとなくここから東京までの距離を調べたら、東京駅までで1137kmと出た。  1137km。想像もつかないこの距離を、母は家族と離れて暮らしている。飛行機でたった2時間だけど、やっぱり、遠い。  父は、おじいちゃんと話しているうちに訛りが出てくる。 「それじゃあ、お母さんはもう動かれんのけ?」 「うん。やっで和葉(かずは)さんがおっで、助かっちょっとよ」  和葉というのは、母の名前だ。 「俺もそろそろこっちに来っかね」 「仕事があいがね? 佳乃ちゃんも東京のほうが何かと都合がよかどじ、無理はせんでよかど」
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