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「ぎゃあっ!」
ルフが全身の毛を逆立てて叫び飛び退くのと同時に、まったく同じ行動をした男が同じように跳ねた。違ったのは、彼は全身を重い甲冑でおおっているということだ。ルフが尻尾を丸めて、という言いかたがぴったりな勢いで逃げ去ったのに対して、騎士は砂に足をとられて無様にひっくり返った。足裏で感じる砂の熱さに一歩ずつ飛び上がるように逃げるルフの背後で、領主が口うるさいジジイに「錆びますぞ」と怒られている。
ルフはあの甲冑姿がなかなか気に入っているので、錆びて使い物にならなくなっては困るのだが、かと言ってすぐに駆け戻って助けようという気にはならなかった。陽をあびてぬるくなった水の感触はまだ、がまんできる。でもこの臭いには耐えきれない。海辺育ちではないルフには「潮のにおい」とやらを懐かしくは思えないのだった。
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