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僕の中に飛び込んで息を潜めていると蜘蛛の巣の片鱗がモンタージュの様に現れる。断片を集めてみるとまず現れたのは焦燥感の様な物だった。残念ながらはっきりと形は見えないのだ。焦燥感に似てる感覚と言うのが正しい。僕自身何に焦っているのか、何と比べて遅れてると感じているのか皆目見当もつかないが、ともかく何かに焦っているのだ。続いて孤独感に似てる感覚の断片を集めた。友人は多い方だし、家族も皆健康で、おまけに素晴らしい女性と愛を押し付けあっているのだけど、確かな寂しさを感じていた。夕暮れ時に部屋の中で一人でいる様な感覚だ。 その他にも沢山の断片を集めていった。嫉妬心に似てる感覚、怒りに似てる感覚、そのどれもが世間ではマイナスと呼ばれている感覚である事に気がついてはっとした。 だが僕は蜘蛛の巣に引っかかった時、他人に押し付けてしまえば少しばかり楽になる事を知っていた。ピカソの様にマイナスの感覚を昇華させるのは中々に難しいので、そっくりそのまま他人へ渡してしまえば良いのだ。贈り物を送る様に出来るだけスマートに、相手の事を考えながら。相手はびっくりした表情を浮かべ、その後必ず悲しみに満ちた表情に変わるだろう。スポーツカーが通り過ぎるよりも早く、表情は変化する。目と口角を落とし、中には涙を落とす者もいる事だろう。一粒一粒心を絞りながら落しているのだ、その時の涙は絶対に忘れられないだろう。 僕は幾分楽になる。流石に清々しさは無いが、蜘蛛の巣の事を忘れられるほんの一瞬がやって来る。 そうやって歳をとって来た僕はコインランドリーで乾燥機をかけている。そして今この瞬間に蜘蛛の巣がまとわり付き始めた。今回のは頭から足先までを、もはや蜘蛛の巣とは言え無い、まるで繭の様に全身を包んでいる。他人へ贈ろうかと考えたが辞めた。内側から蹴破ろうと思った。これは気まぐれかも知れないけれど、確かに僕は今思った。
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