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それらに囲まれたナハール王国の美しさを目の当たりにして、幼いながらも俺は言葉もなく立ち尽くした。
どれぐらいそうしていただろう、青かった空が茜色に変わり始めるころ、さすがにそろそろ帰らないと親父も心配するだろう、と俺は階段に戻ろうとした。
その時だった。
今まで穏やかだった塔の上空から急激な突風が吹いて来た。
俺はとっさに塔の中に飛び込もうとしたが、あまりの強さに子供の身体ではなす術もなくてあっけなく空中に放り出された。
「うわぁぁぁぁぁっ」
身の竦むような高さの塔から舞い落ちる俺。
はるか下方にある地上に叩きつけられる恐怖で遠のきそうになる意識。
必死に手を振り回したが掴むものは空気ばかりで。
落下する頭にあきらめが滲んだ時、家族の顔や楽しかった思い出が走馬灯のように駆け巡った。
親父、いつもやんちゃばっかして困らしてごめん。母さん、母さんのお胸は兄弟にいっつも横取りされてたから、一回でいいから心行くまで独り占めしたかったよ。
兄ちゃんとはケンカもしたけどまだまだたくさん遊びたかったし、生まれたての弟にはお兄ちゃんらしく色々教えてあげたかったな。
あんまりいい子じゃなかったけど、俺が死んだときにみんな泣いてくれるかな。
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