第一章

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「ほんとうにもっと勉強したかったな」 人に聞かれてはいけない言葉、 言いたくても言えなかった気持ちを口に出す。 この狭い自分一人しかいない空間で、僕は漸く本音を言う。 万葉の時代から近代文学まで、美しい日本語を操る先人達の言葉をもっともっと学びたかった。 人の心を打つ歌や文学を学び、地元の子ども達にそれら美しい日本語を伝える教師になる、そして里子と家庭を持つ、自分の願いはそんなささやかなものだった。 でも、それは叶わない。 学徒動員。 兵力不足を補うため、昭和18年からは学生まで徴兵する事になった。 理数系の学生は猶予されたが、文化系の勉学は今日本に必要なものではないとされ、学生でありながら戦争に駆り出された。 文学は必要ないものと…。
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