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終章
もう一度、狭い操縦席から何処までも広がる空を見上げた。
晴れた知覧の空に浮かぶ雲。
父さん、母さん。
まだ幼い大介。
そして、待っていて欲しいと伝えた里子。
雲よ、伝えておくれ。
父と母に、先に逝くことをお許しくださいと。
幼い弟大介に、母を助ける立派な人間になるようにと。
そして里子へ。
待たなくていい。
もう待たなくていいんだ。
万葉の時代と違う今は、飛行機も電車も船もある。
僕は今飛行機に乗っているけど、君に逢いに行くことも、そして明日帰る事も出来ない。
だから僕を待たず、誰か別の人と幸せになって欲しいと。
今から此の身ごと敵艦に体当たりする。
エンジンをかける。
爆弾と片道だけの燃料を積み、飛立つ。
機影も見えなくなる頃知覧の空に風が舞い、雲は東の方へと流れていった。
終
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