夢の時間の終わり

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「もういいです!」溢れ出そうな言葉を、何とか呑み込んだ。私が話を聞く事で、拓夢さんは本当に楽になれる?よく、わからない。 ──高校も最後の一年になった。先輩との本当の関係を、賢人には話していなかった。俺の様子を見て、何かは感じていたかもしれないけど。三年生の間で、よく噂される一年の女子がいた。かわいくて、スタイルもいい。独特の透明感はまるで、その名の通り背中に、きれいな羽を隠し持っていそうだと。番犬みたいな友人が、やたらと周囲に睨みをきかせているから、思うように近付けないが。 「その名の通り?」 「その子、美しい羽って書いて『美羽(みう)』ていう名前だったんだ」 拓夢さんが、その人の名前を呼ぶ声が優しかった。拓夢さんにとって美羽さんは、特別な人だとわかった。でも私の胸は、不思議と痛まなかった。 ──入学式の後しばらくして、その美羽ちゃんと図書室で顔を合わせるようになった。話してみれば、素直で明るくて、ちょっとおもしろい子だった。偶然会っていたのが楽しみになり、美羽ちゃんと会う為に、図書室に通うようになった。夏休みに入り部活も引退して、本格的に受験勉強に取り組むようになった。ある日、賢人に言われた。『夏休み前はずっと機嫌がよかったのに、最近、元気がないな』と。
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