夢の時間の終わり

47/53
123人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
「『好きな人の代わりでもいいから、付き合おう』て言ったけど、ダメだった。『お互い辛くなる時がくるから』て。それまで、誰かの身代わりで付き合っていたのに、今回はそれにもなれなかった……」 「拓夢さん!」 「うん、わかってるよ。その時は、そんな風に落ち込んだけど。きっぱりとフラれてよかったって、時間が経ってから思うようになった。彼女の事を忘れようと、必死に勉強したおかげで、思っていたより上のランクの大学に合格しちゃったしね」 “失恋”をした事で必死に勉強して、あの有名国立大に合格……それが、拓夢さんに起こった事だとは思えない。私のイメージの中の『完璧な拓夢さん』とは、かけ離れている。 でも、全然嫌じゃない。完璧で、手の届かない存在だと思っていた拓夢さんが、とても身近な人に感じた。 ──家を出て、大学生になって、自分の世界がいかに狭かったのかを感じた。以前(まえ)のような変な騒がれ方はしなくなったし、周囲からの好意を、多少はうまくかわせるようになった。加賀見のような新しい友人もできて、一日一日が、あっという間に過ぎていった。二年生になって、一人の女の子に出会った。一つ下の後輩だ。美人で明るい友人の影に、いつも隠れているような控えめな子だった。彼女からの好意には気付いたが、それは押し付けがましくなく、とても穏やかなものだった。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!