夢の時間の終わり

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「っ!」 私は息を呑んだ。もう、悲しい予感しかしない。 「彼女には少し、潔癖なところがあったけど。その表情や声色から、自分の過去がどれだけ彼女に嫌悪されるものなのか、初めて気付いたんだ。俺は、何も言えなかった。ただ茫然と、彼女を見返す事しかできなかった。そんな俺を見て、彼女は顔を歪めて俯いた。『酷い。信じられない』そう呻くように言った彼女の肩が震えていたから、俺は思わず、右手を伸ばした」 私は、息を詰めて拓夢さんの言葉を待った。緩んでいた拳にまた、力が入った。 「もう少しで彼女の肩に触れそうになった時、彼女が顔を上げた。涙を溜めた瞳で、睨むように俺を見た。……『汚い』て言われた。そんな人だと、思わなかったって……」 「・・・」 思わず目を閉じた。私が泣くのは違う、そう思ったから、必死で涙を堪えた。 「『さよなら』それだけ言って、彼女は席を立った。引き止める事は、できなかった。一ヶ月程過ぎた頃、彼女が俺と同期のやつと付き合い始めたって聞いた。そいつは、彼女に一目惚れだったそうだ。俺の初体験の話を、彼女に教えたのはそいつだった。飲み会の時、やけにみんながしつこく訊いてきたのも、そいつが先導して煽ったからだって。そう得意気に周りに話していたのを、加賀見が見たそうだ」 拓夢さんが、自嘲気味に笑った。こんな表情(かお)を、もうさせたくないのに!
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