夢の時間の終わり

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「俺は、大事なものが、何も見えていなかった。何も、わかっていなかった……」 「拓夢さん!」 拓夢さんの声に儚さを感じて、私は声を上げた。 「愛美ちゃん、ごめんね。こんな話聞いても、気分が悪いだけだよね」 私は、ブンブンと首を左右に振った。 「でもまだ、終わりじゃないんだ。これから話す事の方が、俺が愛美ちゃんと付き合えない直接の理由かな」 拓夢さんが、微笑んだ。拓夢さんを悲しげに微笑ませる何かが、まだあるの? ──大学生の間に、告白された二人の女の子と付き合った。二人共、すてきな女の子だったけど、残念ながら長続きはしなかった。俺には、普通の恋愛は向いていないのかもしれない……そんな風に、思う事もあった。 「商社に就職して、それまで暮らしていた場所から遠く離れた。何もかも、ゼロからやり直すような気持ちだった。加賀見と一緒になった事は、素直に心強かった」 ──慣れない事、覚える事ばかりで、毎日が緊張の連続だった。その中で、一緒に研修期間を過ごした同期とは、急速に仲良くなった。男女関係なく、“戦友”のように思っていた。 少しだけ、拓夢さんの声音が和らいだように感じた。 「彼女は、戦友のひとりだった。両親ともに教師の一人娘で、女子校、女子大と通ったせいか、男の人と話すのは苦手だと言っていた」
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