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鼻の頭がつんと痛くなる雪の日。
私はヒリヒリする頬を手袋の上から何度も擦って赤く腫らす。
これは叩かれた痛みではなく、刺すように寒いこの季節の痛みだ。
雪が頭皮に浸透してきて冷たかったので、マフラーを赤ずきんのように被った。いや、冬の日の笠子地蔵みたいに違いない。
このまま凍死するのかな。いや、もうすでに凍死しているかもしれない。私の強い意志だけがこの地に立っているのかもしれない。
なんて諦めた時、空からゆっくり降ってきたのは、青い蝶。模様が雪の結晶のような、氷の結晶のような美しい羽根を羽ばたかせて、青い蝶が何十匹と飛んでいる。
雪が青い蝶に変わる。それを合図に、遠くから電車が近づいてくる。
時間は深夜二時二十二分。ニが三つ重なる夜の深まり。
猫の運転手が手を振っているので、私も手を振り返した。
私は、冬の刺すような寒さの痛みよりも強い痛みを知っていた。
避けきれずに受けた痛みで、死んでしまいたかった。
猫の運転手に手を振りながらこぼれる涙は、青い蝶に代わって飛んでいく。
「あーあ。君、また来ちゃったんですね」
「またって、いつ来たんですか」
飛んでいた青い蝶を一匹捕まえると、チケット代わりに渡す。
すると、青い蝶は消えてしまった。けれど運転手さんは仕方なさそうに私を入れてくれる。
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