深夜二時二十二分。私は猫になりたかった。

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「おや、今日も来たのか」 「魔法使いさん」  ジャージ姿で半額のお弁当を食べていた魔法使いさんが私の方に割り箸を持った手を振り回す。  彼は目を覆い隠したウエーブ掛かった髪から耳をぴくぴく揺らして、隣に座りなよと合図してくる。なので、私は正面に座った。 「半額のお弁当食べる?」 「いえ。今、頬の中が痛いの」 「また叩かれたの。今度はどっち?」  ノリを巻いたおにぎりを箸で二つに割って、一口で半分食べてしまう。表情が見えないけど、彼が聞いてくれるのは社交辞令からだ。 「今日は両方の頬を叩かれたの。ほら、右の頬をぶたれたら、左の頬を差し出すでしょ」 「ん。でも叩かれる前にこう言えばよかったんだ。『今まで一度でもご飯を残したことがない奴だけが、私を叩きなさいって』そういえば、叩けなかったでしょ」 「なんか、色々混じってる」  それを言えば、逆効果で更に叩かれる気がする。
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