第二話 リペア・マインド

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 時名さんは、最近こちらに住むようになって、四月からこの学園に通うことになったのだという。今日は通う前に、学園の見学をしたかったらしく許可をもらって来たとのことだった。ベンチで広げていた資料は、学園の入学パンフレットとのこと。 「……そうなんだ、じゃあ、春から一緒に通えるね」 「ええ、そうですね」  時名さんと初めて合って、まだ数時間しか立っていなかったのに、今まで感じたことの無いほど楽しいと時間だったと実感していた。しかし、その楽しい時間も、もうすぐ終わろうとしている。  家を飛び出してきた私は、これから一夜を過ごす場所すら決まっていない。この後、どうなってしまうのか分からない状態だった。人並みの生活をするには、義父に、また体を捧げなければならないのかもしれない。 「……う、うう……」  悲しかった……。時名さんと話した数時間が、眩い時間だったからこそ、今の自分がどれだけ惨めな立場にいるのか痛感してしまっていたのだ。 「……それじゃあ、そろそろ行きましょうか?」  時名さんが、ベンチから立ち上がる。夢のような時間は、終わりを告げた。私は弱々と頷き、ベンチから立ち上がる。そして、ふらふらとその場から立ち去ろうとする。  そんな私の左手を、時名さんは両手でがっしりと掴む。少し痛いほど、ぎゅっと握りしめる彼女の両手は暖かく、その痛みすらも心地よい感じがした。 「……どこに行かれるのですか?」     
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