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こちらを振り向いた女性の眼鏡の右側のレンズには、大きなヒビが入ってしまっていた。私は謝ろうとするも、左肩の激痛と未だに状況が把握できておらず、口を何とか動かそうとするも、パクパクとするだけで声にすることができなかった。
その様子を見た女性は、呆れた顔をしつつも、安心した様子で私に話しかけてきた。
「その様子なら、もう、あなたの心は大丈夫のようですね」
女性はそういうと、私の前から立ち去り、停止していた電車の空席に何事もなかったように座る。私はその様子を、ただじっと見つめるのだった。
*****
その後、警察沙汰にはならなかったものの、駅事務所に連れていかれた私は、保護者が来るまでその部屋で保護されることになった。正直、両親にはいま一番会いたくなかったのだが、未成年という立場上、私にはどうすることもできなかった。
一時間程度経った頃だろうか。青ざめた顔をした母が、駅事務所の扉から現れる。急いで来たためか、服装が外行きのようなものでなく、部屋着にコートを羽織っただけの格好だった。
母は私の側に来ると、私をじっと睨みつける。そして、その場で立たせ私の頭の後ろに手をおき、深々と強制的に頭を下げさせる。母も同様に深々と頭を下げ、駅事務所にいる駅員の方に謝罪の言葉を伝えていた。
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