第一話 二人の出会い

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 それから母と駅員がしばらく話し合ったあと、私は開放された。それから家に付くまでの間、歩き続けた私と母は無言だった。母が私の右手首を、痛くなるほど強く握りしめていたのは、心配だったからなのか怒りによるものなのか。  母に引きづられるように私は歩き続ける。そろそろ正午になろうとした頃、私が住んでいる家が見えてきた。少し年季の入ったアパート。ここの二階の一番奥の2DKの部屋が、今の私の家だった。昔の楽しい思い出も沢山あるのだが、今は……、嫌悪感で一杯の場所にすぎなかった。  玄関を見ると、父の靴があった。今日は仕事だといっていたが、どうやら会社から戻って来ているようだった。 「あなた、連れて帰ってきました」  母が玄関のドアを開け、家にいるであろう父に報告しようとした途端、部屋から出てきた父は私の右手を引っ張ると、六畳程のダイニングキッチンのある部屋に突き出した。少し大きな音がして、キッチンの椅子が倒れる。私は背中をテーブルに強打してしまい、その場で蹲る。 「……お前……あのことを、誰かに喋ったのか……!」  怒りと怯えが混ざったような、低い声で父が訪ねてくる。その言葉を聞いた途端、私は少し笑いだしてしまった。 「ふふ……。血が繋がっていないとはいえ、娘が電車に飛び込もうとしたことよりも、自分の身が心配なんですね、お義父さん……!」     
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