最後の一枚

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最後の一枚

絶え間なく吹いていた冷たい風が、その一瞬ピタリと止んだ。 彼女は瞬きもせずに、カメラのファインダーを覗き込んでいた。 呼吸も、自分の心音すらも遠くなる。絶対の静寂がそこにあった。 僕は、その世界の美しさを知っている。 全神経の集中した指先だけが迷いなく動いて、耳慣れたシャッター音がやけに大きく響く。 ほぅ、と。 白く柔らかい息が桜色の唇から零れ、宙へと溶けていくそれを、僕は息を潜めて見ていた。 「……あんまり、見ないで下さい」 カメラから視線を逸らさないまま、彼女がポツリと呟いた。照れなのか寒さからなのか、その頬は淡く薄紅色に染まっていた。 「バレた?」 僕が戯けてみせれば、彼女は呆れたような溜め息を吐いた。 「あなた方、先輩の卒業アルバムでしょう。少しは真面目に撮って下さい」 「はぁい……っ、くしゅん」 我ながら可愛いくしゃみが出て少し恥ずかしい。これでも高校3年男子なのだけれど。 「……寒いなら、先に戻っていても構いませんよ。受験生に風邪をひかれると困ります」 さっきとは真逆の事を言う彼女に、何だかんだ優しい子だよなと思う。 「僕は推薦決まってるから、気にしなくて良いよ。ここにいる」     
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