イチゴ

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方向音痴なユヅキは犬の散歩を通して 徐々に新しい街の位置関係も把握できた。 そんなユヅキとイチゴの新しい生活を 母は微笑ましく見守っているようだった。 その一方で父、青山柳(あおやま りゅう)は 新たな家族との暮らしを 快く思っていないように見えた。 部屋の中にイチゴの存在を認めると すぐ書斎へ引き込んでしまう。 何の相談も無く 母が勝手に犬を連れて来た事が 気難しい父にとって 面白くなかったのだろうと ユヅキは思っていた。 犬の件については、 思い立ったら何も考えず実行する アヤメらしい行動だ。 元々ユヅキが幼い頃から仕事仕事で 顔を合わせる事も少なかった研究者の父が、 どこか非難がましい視線を送ったところで 今更母もユヅキも気に留める訳でもない。 「あの人は小さい頃、 犬に噛まれてからというもの あまり犬が好きじゃないのよ」 そう小声で言って ユヅキの母は悪戯っぽくクスクスと笑った。
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