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春休みも終わり新学期からいよいよ
ユヅキは中高一貫の高校へ
編入する事になった。
理工系に特化した学校の割に
女子の比率が高いという
ちょっと珍しい学校だ……と
ウワサでユヅキも聞いていた。
何故県内でも屈指のトップ校に
ユヅキが編入できたのか謎だった。
生物の授業は好きだけれど
ユヅキはどちらかと言えば文系。
……無謀だ。
子供の減少に伴い
多くの学校は合併や閉鎖を
余儀なくされている。
そうそう学校を選べる立場でもない事くらい当時のユヅキにも理解できた。
「初陣だね!」
母アヤメは能天気に言う。
そもそも、学校を探してきたのはアヤメだ。
「私……大丈夫かなぁ」
登校初日、母とイチゴの見守る玄関で
ユヅキの口からつい泣き言がこぼれる。
「何言ってるの!
これから輝かしい未来を背負って行く若者が
こんな事位大丈夫じゃないワケ
無いじゃない?」
母アヤメは楽しげに笑った。
『これから輝かしい未来を
背負って行く若者が』というのは
アヤメの口癖の一つだ。
世間の荒波に揉まれた事が無い
専業主婦の口から出た
そんな言葉にはまるで説得力が無い。
それでも何故か母の言葉には
何処か達観した響きが感じられた。
ユヅキは母の言葉に大きく頷くと覚悟を決めて玄関から外の世界へと足を踏み出した。
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