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「事前に知っていたというより
前人類の調査を続けて来て可能性として
そろそろ『ある』かもしれない……と
疑っていたのは確かだ。
君、勝手に試食するのはやめなさい」
角爺の注意も聞かずMITAはルッコラを引き抜き
品質を確かめるかの様に
葉の様子、香り、味をチェックしながら訊く。
「次に何が起こる?」
「もし前人類が通った道を
我々もそのまま辿ると想定したら
異常な長雨と異常な日照り……」
壊滅した町は何年もの雨で水浸しになり腐り落ち
ある時を境に何年も雨が降らなくなったと
角爺は推測しているようだった。
「雨が降り出す前に行きたい場所があるんだ。
ユヅキ……一緒に来てもらえる?」
本物の太陽を知らない水の畑で育つ植物達を
ぼんやり眺めながらケイは言う。
ユヅキはケイの父が最期に言った言葉を思い出しながら頷く。
── あなたのお母さんが大事に育てた
薔薇を見に行きたいんだよね。
地熱で温められた地下水のシャワーを浴び
非常食のディナーを四人で囲み
ストレッチャーの様なベッドにそれぞれ横になる。
角爺は自分が元々使っていた部屋へ
MITAは書庫へユヅキとケイはそれぞれ空いている空間へ
簡易ベッドを動かして眠りについた。
──あまりに色々あり過ぎた。
この先一体どうなってしまうのか……
考え出したらキリが無い。
今は生き残った事を謙虚に感謝して
亡くなった人達の分まで1日1日
一生懸命生きるしかない。
そう理性では前向きに考えているのに
何故か毛布を被ると涙が頬を伝った。
「ユヅキ……」
誰かの囁き声が聞こえたきがした。
声を殺して涙を流すユヅキの手を
誰かが毛布の中でギュッと握った。
── えっ?誰!
ユヅキは驚いて毛布を勢いよくめくり上げた。
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