黒犬

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きっかけは犬だった……。 「この街にユヅキが早く 馴染めれば良いなって思って」 そう言うとユヅキの母、 青山アヤメは勿体つけながら 籐の籠を開いた。 小首をかしげて黒い仔犬が顔を出す。 「わぁ!可愛い。縫いぐるみみたい」 仔犬はクゥンと小さく鳴いて 籠から出て来た。 黒犬は見慣れない世界をぎこちなく見回す。 トコトコと膝元までやって来て ユヅキの手のニオイを嗅いで ジッと顔を見上げた。 仔犬の右目は僅かに青みがかった 不思議な色をしていた。 それに気付いて仔犬の顔を 不安気に覗き込むユヅキに アヤメは言った。 「大丈夫よ。病気じゃないから。 生まれつき片方の目が青いの。 ちゃんと見えてるわ」 そんな母の言葉はユヅキを興奮させた。 黒い犬は世界中にたくさんいるだろう。 でも、片目が青い犬はきっと 世界にたった1匹だけに違いない。 今にして思えばそれは、 ただのオッドアイだったのかも。 遺伝的に何か 問題があっただけかも知れない。 でも、その時のユヅキは そんな事さえも特別に感じられた。 ──私だけの仔犬。 ユヅキはその日、 喜びをいつまでも噛み締め 朝まで眠れなかった。 そう……小学生の頃ユヅキの周りでは 犬を飼い始める同級生が何人かいた。     
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