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誘われて遊びに行くと
その子の家の庭には
赤い屋根の可愛らしい犬小屋があった。
名前を呼ぶと
尻尾を千切れんばかりに振りながら
小屋からコロンコロンと
仔犬が飛び出して来る。
友達は得意気になって
犬にブラシをかける。
散歩に付いて行くと
電信柱から電信柱までほんの少しだけの間
リードを持たせてくれた。
羨ましくて羨ましくて小学生のユヅキは
父と母に何度も犬を飼いたいとねだった。
父と母の答えはいつも同じ。
「縫いぐるみとは違う。
生きているんだからね。
飽きたら終わりじゃないんだよ」
「いつかユヅキが一人でも
ちゃんと世話ができるようになったらね」
──いつかって、いつよ?
学年が変わっていくうち友達も
犬に飽きたのかいつしか散歩もしなくなり
その子のお母さんが犬の散歩をしている姿を
ユヅキは何度も目にした。
──私だったら、親に丸投げなんてしない。
ちゃんと世話できるのに……。
生き物好きなユヅキの中で
ずっとくすぶり続けた思いがあった。
そんな気持ちも成長と共にいつしかユヅキの中で有耶無耶になっていった。
──母さんは
ちゃんと憶えていてくれたんだ。
ユヅキが小学生の頃から
ずっと犬を飼いたかった事を
忘れないでいてくれた事が
この時のユヅキは素直に嬉しかった。
ただ単に犬を飼いたがっていた事を
憶えていたと言うより……
仲の良い友達と別れてひとりぼっち
春から知らない町で学校生活を
始めなきゃならないユヅキを
励まし応援したかったのだろう。
その気遣いに
胸しめつけられユヅキは
母に抱きつきたくなった。
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