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唯は家に帰るなり、自分の部屋へ籠った。
1階のリビングからは母が夕食はどうするのと大声で聞いてくるが、今の唯はそれどころではない。
「後で食べるー!!」
唯もまた大声で返事をする。
電話の呼び出し音がやけに長く聞こえる。
『もしもし唯!今日はどうだった!?会えた?』
「すっごく楽しかった!最初は竹本さん居ないなって思ったんだけど、自由曲吹いてたら声かけられて、振り返ったらバッタリ!!」
『えー!それでそれで?』
「私たちがやる自由曲ね、昔竹本さんが高校の時にも吹いたことあったみたいで、一緒に自由曲吹いたの!あのCDの演奏、竹本さんたちなんだって!」
『すごい偶然だね!共通点がみつかったなら、結構話せたんじゃない?』
唯はすぐさま美玖に本日の報告をする。
美玖も唯の話を聴きながら興奮しているようだ。
「たくさん話せたけど、ほとんど吹奏楽の話だったよ。それでね、来週の日曜日にスケールの楽譜を借りられることになったの!」
『竹本さん、吹奏楽が好きなんだね。楽譜借りるってことは、会う約束ができたってこと?』
「うん!また同じくらいの時間にって。」
『そっか!本当よかったね!唯はいつも緊張に弱いのに、今日は頑張ったね~!偉いぞ!』
「えへへ…。」
美玖との電話で盛り上がっていると、下の階から母親の声が聞こえてきた。
「唯ー!片付かないからさっさと食べてよー!」
「すぐ行くーっ!!あーごめん美玖、お母さんが夕食だって呼んでるからもう切るね。」
『大丈夫!じゃあ、また明日。』
「うん、また明日。」
携帯の終話ボタンを押して電話を切ると、部屋が一人の空間であることを実感する。
今日も、美玖にひかりのことを言えなかった。
「……ごめん、美玖…。」
いや、そうじゃない。
唯自身、本当は言いたくない。
唯は迷っていた。
いつか本当のことを、美玖に告げる日が来るのだろうか。
携帯をポケットに入れ、部屋の電気を消す。
唯はもやもやと蟠る気持ちを切り替えるかのように、足早に家族が待つ1階のリビングへと降りて行った。
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