瑠璃の決意

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 主人に支えられながら手渡した母の骨壷を、これまで一言も発していない壮年の男性がしっかりと受け取ってくれ、無駄のない動きで踵を返した。  残った2人の社員に連れられ、私たち遺族と参列者は火葬場のすぐ外に急ごしらえで作られた「特設会場」に案内された。サーカス小屋のような見た目の天幕で、空間の中央にロープで仕切られた枠と私たちのための椅子が三脚あるだけ。参列者全員が立ち見になるなら、あともう1000人くらい収容できるはず。  宇宙葬の噂を聞き付け、「空を見たい」という想いで集まっている人たちがもしいるなら、できるだけ入っていただくように、と思い付きで社員に伝えたら、数分足らずで会場は超満員になった。これだけ大勢の人がいるにもかかわらず、辺りは秩序のある静寂に包まれているのがありがたい。 「皆様、お待たせいたしました。これより仰倉 茜(おおくら あかね)様の『宇宙葬』を執り行わせていただきます」  女性司会者が粛々とそう宣言し、辺りが徐々に暗くなり始める。完全に闇に包まれる寸前、私に返された骨壷は不思議な存在感を残したまま、少し軽くなっていた。  それを膝上に抱え、主人と萌と身を寄せ合っていると薄闇のなかで近付いてくる影が見えた。先ほど母からの手紙を渡してくれた社員だ。私の前に膝を着き、「発射」という文字が画面に浮かんでいる端末を差し出してくる。 「手始めに宇宙葬の流れなどご説明させていただく予定でありましたが、茜様よりご指定いただいている打ち上げ時間に差し掛かっておりますため、先にご遺骨の打ち上げを行います。…瑠璃様、お心の準備ができ次第、発射スイッチを押していただけますでしょうか」  促されてからスイッチを押すまでには10秒とかからなかったと思う。それらしく深呼吸をしてみたけれど、とうに心は決まっていたから。  ―――ドォオオォオン!!  画面に触れた瞬間、爆発音が轟き、萌がきゃーっ、と高い悲鳴を上げた。弾みで落としそうになった骨壷を抱え直すと「発射、成功です」と噛み締めるような呟きが響く。 「今打ち上げられた茜様のご遺骨入れには専用のカメラが取り付けられています。そのカメラが映し出した景色がこちらの会場全体にそのまま投影される仕組みです…皆様、頭上をご覧ください! 徐々に大きくなっているのは地上から漏れてくる光です」
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