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「成功するかどうかわからないことに力を貸すってことよね。しかも『みんなに空を見せてあげられる』って…母さん、自分の葬儀を見せ物にでもする気!?」
「そんなつもりはないよ。ただ、空をもう一度見たい人や、空を見たことがない子たちに、そういう機会をあげたいというだけでね」
「たくさんの人を呼んだら、私たち遺族にどれだけの負担がかかるか」
「ママ、おばあちゃんとケンカしてるの…?」
恐々と掛けられた声に振り返る。自分の背より長い杖を両手で握り締めて涙ぐんでいる萌が扉の前に佇んでいた。
「ううん、そんなことないよ。びっくりしたね、ごめんね」
母に杖を手渡した萌を抱きしめ、自分の寝室に行くように促す。素直に頷いてはくれたものの、子供ながらに感じるものがあるのか、萌は少し歩いては振り返り、を何度も繰り返した。
扉の向こうに消えてもなお、必死に聞き耳を立てているのがわかる。微笑ましさに思わず母と顔を見合わせてしまい、慌てて顔を背けた。一件落着したと思われたくない。
「とにかく、考え直してね。こんな奇抜なことをやりたがる人だなんて思ってなかった」
「瑠璃。自分の後始末の付け方くらい、好きに決めさせておくれ」
突き返したチラシを、母は頑として受け取ろうとしなかった。ゆっくりと頭上を仰いだ後、LEDシーリングライトを忌むようにぎゅっと瞼を閉ざす。
「こんな状況じゃ、『死に場所』は自由に選べないんだから」
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