瑠璃の決意

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「この度は御愁傷様でございます。私どもは株式会社To the SKYの者です。茜様のご依頼で参りました」 「…もしかして、宇宙葬の」 「はい。ご遺骨の半分を瑠璃様のお手元に残し、後の半分を宇宙へ打ち上げる試みにご協力いただくお約束でして。ただ…」 「ただ?」 「瑠璃様にどうしてもご納得いただけそうにない場合は『無理に推し進めないでやってほしい』とも伺っております。くれぐれも、瑠璃様の気持ちを第一にと」  母が亡くなって初めて、私は目頭が熱くなった。  そう、母は“そういう”人だった。「自分の後始末の付け方くらい、好きに決めさせておくれ」なんて言っておいて、いざその段になったら自分より他人の考えを尊重して。きっとこの宇宙葬の会社の人たちにも、火葬が終わるまでは私に接触しないようにと言付けていたに違いない。私にかかる負担を最小限に留めるために。  馬鹿だ、私は。どうしてあのとき気持ちよく背を押し出してやらなかった。誰より母の幸せを願ったふりをして、最後の最後まで駄々をこねただけ。そのせいで、わだかまりを残したまま永遠に会えなくなる結末を手繰り寄せてしまった。  身を震わせる私の肩にそっと触れてきた主人が、骨壷を落とさないようにと優しく引き取ってくれる。 「瑠璃様。こちら茜様よりお預かりしておりました、瑠璃様宛てのお手紙です」  最も小柄な若い男性がおずおずと手渡してきた封筒を受け取り、中身を引き出す。  「瑠璃へ」。手紙の左上に記されている宛名を見ただけで、目が早くも使い物にならなくなりそうだった。 “あなたにとって空は、それほどまでに価値のあるものではないとわかっています。でも私は、他の誰でもないあなたに1番見せてあげたいのです。どんなときでも「俯いているのがもったいない」と思わせてくれるような、美しい空を。「瑠璃」という名前は、澄みきった空の色からもらったものだから"  とうとう力が抜け、場にくずおれてしまう。人目も憚らず号泣し始めた私につられ、萌もわんわん泣き出した。抱きついてくる小さな体に縋りつきながら、必死で息を整える。  どんな答えを返したところで今更になってしまうけれど、母は親不孝者の娘でも赦してくれるだろうか。 「母を…よろしく、お願いいたします…っ」
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