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「今日は学会に出ないといけないから、留守番頼むよ」  父はヨレヨレの白衣を脱ぎ、スーツ姿になって、いつになく身だしなみを整えていた。  最近ニュースでもよく取り上げられている、とある星の接近についての学会に出席するのだろうと思った。天文学の第一人者として知られる父が「学会」といえば現状に鑑みて、それしか考えられないのだった。 「わかった。夜ご飯は適当に済ませるから」  そんな会話をして暫くすると父は出掛けていった。同時に家には静寂が訪れた。  母は、私が五つの頃。買い物に行ったきり、戻ってこなかった。父が研究ばかりで家庭を省みないせいだったのだろうと思う。  それから十年、父と娘の二人暮らし。お金にはかなり余裕はあるし、家も立派。けれど、私の内に眠るさみしさは埋め合わせられなかった。  私一人家に残され静かになると、二階にある父の研究部屋に入った。テニスコート程の面積があり、広い。地球儀や天球儀、白衣、何かしらの天体に関する資料がところ狭しと積まれ、転がっていた。  一人っきりの静かな家の中でもここだけはなんだか騒々しい雰囲気に包まれていて、お気に入りの場所だった。    部屋を入口から見渡すと、ふと、中央に横になってみたいという思いが湧いた。そこからの眺めはきっと新鮮で、同じ部屋でも、今までとは違って見えるだろうという予感があった。  同じものでも、見方を変えれば違って見える。それは食指をくすぐる考えだった。
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