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第1話:朧気で白い世界
水面を漂うかのような浮遊感があり、真っ暗な視界にも関わらず安心感があった。遠い昔に此の場所で、同じように浮いていたような気がする。
眠っているような安らぎを感じ、目を覚まそうと瞼を開ける。辺りは真っ白で、何モノも存在していないのではないかと思わせる光景が広がっていた。
何故こんな場所に居るのか思い出そうと試みるが、記憶はおろか名前までボヤけてしまって分からなかった。
此処に来てどれだけ時間が経っているのか分かるはずもなく、ただただ白いだけの空間を見つめていることしか出来ない。
ふと自然な動作の中で瞬きをすると、突然一人の老人が目の前に現れた。上から下まで真っ白で、口元が見えない程長い髭を蓄えていてる。
老人は悲しげな表情をしていて、申し訳なさそうな視線を向けてくる。記憶が無いせいもあって、何故そんな表情をしているのか分からない。
(この老人はいったい誰なんだろうか)と思った瞬間、老人がゆっくりと口を開いた。
「儂は【輪廻】を司る神じゃ。申し訳ないのぅ……儂の失敗で、其方は死んでしもうたんじゃ……。」
死んだ?確かに此処に存在しているじゃないか。魂だとか精神体だとでも言うのだろうか。
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