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通勤ほどではないが混雑した電車に乗り、数多のファッションビルやデパートを擁する駅に降りる。今日は春らしい陽気だからか、一層人出が多い気がする。 人人人。本当に東京の繁華街は人が多い。みんなどこから来たんだ。で、どこに行くんだ。そんな疑問の中に俺自身も混ざる。 裏から行っても良かったが、人の流れに逆らう気をなくして、素直に表通りを行く。 グループ、カップル、友人同士、俺と同じく1人で目的地に向かう人。行き交う人を目の端に映しながら歩いていると、人の海に紛れて前方から3人の家族連れが来た。 瞬間、足が止まりかけ、後ろから来た人に少しぶつかり、慌てて歩調を元に戻す。 華やかな雰囲気の綺麗な女性が、歳がいくつかは分からないが、まだ小学校に上がる前と思しき男の子を抱っこしていた。その隣にはー アキさんがいた。色々買い物をしたようで、手には多くの荷物を持っていた。 男の子が不意にアキさんの方を向いて手を伸ばす。アキさんが荷物を片手に持ち替え、男の子の手の方へ指を差し出すと、男の子がアキさんの指をギュッと握り、そのままブンブンと振って、嬉しそうに笑い声を上げる。アキさんも笑った。ちょうどあの家庭教師時代の元教え子に接した時のような、いやそれよりもっと優しくて嬉しそうな笑顔だった。 知らぬふりして見つからないように擦れ違おうと思ったが、目が離せなかった。擦れ違う瞬間、アキさんがこちらを見た。 一瞬、目を見開く。 が、すぐに子どもの方へと目線を戻し、何事もなかったかのように通り過ぎて行った。 ほんの数秒の出来事。でもまるでスローモーションのように過ぎ、一連の光景がはっきりと網膜に焼きつく。
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