第一部[プロトタイプ]

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 外は『彼ら』の世界だった。HUは治療者の想定よりずっと世界を共有していた。混ざる。私は彼らにどんどん侵食され、曝露され、弄られて、感覚は容積を軽々越えて情報処理できずに停止し、細切れになった。  彼の手で元の形に戻ったあとも私の体内は渦巻いていた。 「みんな楽しかったって。君も楽しめた?」  安楽いすにもたれぼんやり彼を見上げる。前より肉感的に見える。私のように。  オートクチュールの子らから与えられた感覚は雑多で混沌として、配慮がなかった。剥き出しの神経に直接刺激を受けたような。生きながら小魚にたかられるような。  涙が一筋、頬を伝うのを感じた。熱い、そしてすぐに冷たい。痛い、痛い刺激。  もうここにはいられない。 「どうしたの?」  彼はあどけなく疑問を浮かべ、私の顎から今にも落ちそうな雫を舐めとった。 「しょっぱい。でも海はもっとしょっぱかったね、あんなに乾いてたのに飲めない水ばかりだったもんねえ」  舌のザラリとした刺激が痛い。痛い。なにもかも。 「次は僕の海においでよ。もっとすごいの用意しとくからさ!」  ニカリと笑って続く涙を手の甲で拭う。ひやりと刺さる、夕凪前の一風。 「疲れた? じゃあ僕は戻るね。また明日」  私は身体に戻った。戻ってリハビリに尽瘁した。鋭敏になった神経には刺激が針の如く襲ってくる。それでも肉体の枷はそれらを和らげた。初めて鈍さに安堵した。     
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