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描かれていたのはゆるやかに左へカーブした小径で、その両側には夥しい数の真紅の彼岸花が、燃え盛る炎のように咲き誇っていた。さほど大きな絵ではないが、私も妻もその迫力に圧倒されて、ただ息をつめて見入るばかりだった。
「凄いな……」
私がやっとの思いでそうつぶやくと、妻は小さくため息をつきながら話しかけてきた。
「本当に無名の画家さんなの?」
「多分、今のところはね。ただし、こんな絵が出品されたら、どの公募展でも特選間違いなしだ」
「それで、これからどうするの?」
「とりあえず、黒崎と連絡を取ってみるさ。送り状に電話番号がなかったから、手紙を書くしか手がないんだがね」
「それにしても不思議ね。二十年も会っていないんでしょう? それなのに、メモ書きひとつ添えるでもなく、いきなり絵だけをぽんと送ってくるなんて……」
「同感だね。でもまあ、ろくに手がかりもないし、あれこれ考えるのはここまでにしておくよ。自宅でのんびりと名画を愛でる機会なんて、めったにないからね」
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