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この矛盾を前にしてカンザス州の大工の次男として生まれたハートマンは、私たちの世界が人間一人一人の観念の相互関係がもたらす一種のゲームであることを直感的に感知していました。この宇宙には存在する価値があるものもなければ存在する意味すらないとハートマンは考えていましたが、彼は自身のその考えを諦念ではなく、一種の希望を持った眼差しで見つめていたのです。『モリス街のガッダ』はそんな彼の自伝的な小説の一つであり、彼が創作活動に打ち込んだ最後の十年間のおおよそ初期に書かれたものだと言われています。なぜ書かれた年代が特定されていないのかと言われますと、彼が出版社に出入りするようになった頃、当時サーフ出版社の編集長として勤務していた友人のガートランド氏に仄めかしており、「『モリス街のガッダ』を世間に発表する日はないだろう。私が生きている内は」と語ったそうです。実際その通りになりました。彼は結局この作品を発表せずに、1993年の10月のある日、スイスはモントルーのホテルで執筆中、脳出血を起こして死んだのです。はっきり申し上げますと、当時、彼の死はさほど読者の悲しみを呼びませんでした。ドストエフスキーが死んだ時には大きな葬式が挙げられ、多くの人間がその死を惜しんだものですが、ハートマンは小さな家族葬が行われただけであり、彼の死のニュースは地方紙の一ページを埋めただけでした。
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