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僕が去年のクリスマスで贈ったベージュのコートを着て予定よりも少し早く出かけた。 玄関まで見送った時、太陽は掛け布団の様な雲に隠れていて昼間なのに薄暗く、街灯が必要な程だった。 「傘、持って行かなくていいの?」 グレーの水玉模様の傘を指差して僕は言った。妻のお気に入りの傘だった。 「大丈夫、今日は晴れるって天気予報でも言ってたし。雨が降ったらタクシーで帰ってくるわよ」 妻はそう言うと、トントンとパンプスの爪先を2回打ち鳴らし玄関を出た。ステップを踏む様に軽やかに。 僕はベランダへ行き、イギリスの国旗がプリントされている白い陶器の灰皿を持ってリビングへ戻った。灰皿の縁には「ようこそ、イギリスへ!」と英語で書かれていた。 何時もはリビングでタバコを吸うと妻に怒られてしまうので、わざわざ2階のベランダへ出て行き立ちながらタバコを吸っていたが、僕は妻が居ない時、こっそりとリビングにあるブルーのソファでタバコを吸っているのだ。 吸い終わった後で消臭剤を振り撒けばばれやしない。 そもそもこのソファだって僕が買った物だ。 タバコを2本吸って僕はさて、何処から掃除しようかと考えた。 やるからにはそれなりに感謝されたいので、やはり妻が普段しない様な所がいいだろう。 僕だって掃除位できる、と言う所を妻に見せたい。僕はソファから立ち上がり、フラフラと家の目ぼしい所を見て回った。 テレビの裏、カーテンレール、ソファの下、ベッドの下、トイレ、キッチン… 僕の思いつきそうな所は全て綺麗になっていた。 全てが鏡の様に、僕の大きく見開いた両目を映し出していた。 がっかりしたのと同時に妻が誇らしく思えた。まさかここまで徹底しているなんて思いもしなかった。 所詮、普段掃除しない男の気まぐれにしか過ぎなかったのだ、僕は直ぐに掃除を諦めてリビングに戻り、タバコをふかした。 しばらくぼうっと、TVと僕が吹き出すカーテンにの様なタバコの煙を交互に眺めていた、すでにイギリスの国旗は隠れてしまっていた。 いつのまにかウォールナットのテーブルには、2本の缶チューハイとチョコレートの銀紙が誰かを祝う様に散らばっていて、一息吹くと、落ちている灰と共に吹き飛んでいくだろう。
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