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TVでは美しいピンクの脚を見せつけている女子アナウンサーが、この世の終わりみたいな顔をして著名人の訃報を伝えていた。 見ているこちらが心配になる位の表情だった。タバコの煙はリビングの天井へ上がり、壁を這ってゆっくり広がる。煙の先端はくるっと丸く円を描いていた。 煙を目で追っていくうちに壁の角に茶色い汚れがついているのを見つけた。 近づいて見てみるとサビの様な汚れである事が解った。爪で擦ってみたが中々落ちない。 キッチン用の洗剤を布につけて擦っても同じだった。 何としてもこの汚れを僕は落としたかった。 この汚れを落とせば、僕は得意げに妻に言えるのだ「壁の所、汚れてたから落としておいたよ」と、それはかなり大変な作業だったと含みを持たせて。 とは言え中々に頑固な汚れだったので頭を悩ませた。もう一度、布で壁が熱っぽくなる位に擦ったがやはり何も変化は無い。 やはりこの家の汚れは、この家の汚れを全て落としてきた妻にしか落とせないのかもしれない、と思った。 ただ妻が行なって来たのはあくまで「掃除」だ。洗剤やら粘着テープやら婦人誌に載っている様な便利掃除グッズなんかで、ちまちま「掃除」していたに過ぎない。僕は工具箱から紙やすりをもって来て、汚れごと壁を削ってみた。 ガリガリと思った以上に壁は大きい音を立て、泣いていたが構わずに削った。 少しずつ汚れが薄くなって行く。 削った壁から完全に茶色い色素は無くなったが、ざらついてしまい、触れば異変に気がつくけれど離れて見れば何の変哲も無い、何時もの白い壁だ。 成る程、掃除と言うのもいいものだな。 すっかり綺麗になった壁を見て僕はそう思った。 妻の言う掃除の良さを少しだけ理解出来た気がした。TVのアナウンサーはパンダの赤ちゃんが生まれた事を伝えていた。 先程の訃報からすっかり立ち直れた様で、美しい笑顔を見せていた。やはり女性には笑顔が似合う。 リビングの窓を開けると小雨が降っていた。冷たい空気が入って来た、もうすぐ冬になる。 「ただいま、雨降って来ちゃったよ」 玄関から妻の声がする。 僕はもう一度汚れを落とした壁を見た、素晴らしい白だ。妻のリアクションを想像すると思わずにやけてしまう。 パタパタとスリッパの音を立て妻がリビングに入って来た。 「ねぇ、タバコ吸った?」
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