童貞を捨てた、あの日の空

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しばらくして、今週末から家族が旅行に行くことと、自分はそれに同行せずにひとりで留守番をすることを彼女にメールした。すると彼女からメールの返信があって、姉は旅行に行くのか、と聞かれたが、行くよ、と伝えると、明後日の土曜日にまたあの海辺のベンチで会えないかと連絡があった。大丈夫だと簡単に返信すると、じゃあよろしく、と返ってきた。 その日、約束通り海辺のベンチで彼女を待っていると、白いワンピースに麦藁帽子という、なんだかちょっとよくあるアニメ的なイメージの格好で現れたが、意外なまでによく良く似合っていた。彼女がそういうキャラになり得ることをその時はじめて知った。 「最近どうよ。」と彼女に聞かれ、「どうって?」と僕が答えると、「どう?って言われても…。」と彼女は口ごもった。 僕は海辺に設置されたベンチから海を眺めた。少し遠くの方で白い帆が穏やかな風によってふくよかに丸みを帯び、滑るようにヨットを運んでいた。ヨットは操縦される意思を全く感じさせず、波がほとんどないのか、すーっとゆっくりと真っ直ぐ動いている。風を受ける帆の丸みが、ふと女性の胸の膨らみがつくる水着の形状のように思えた。彼女の胸にちらっと目をやったが、これはあの帆の形よりもずっとフラットであることを改めて確認することになった。クラスのどの子ならあの帆のような形になるだろうかと思ったが、その時彼女が口を開いた。 「あのね、だいぶ前からあなたのことが気になっていたのだけれど、気が付いていたのかな。」 「いいや、気が付いたりはしなかったよ。」     
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