童貞を捨てた、あの日の空

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そして会話はまた途切れた。何か言葉を探すのは面倒だったので、黙っていても一緒にいることだけで満足なんだと思い、そういうメッセージを送るべく沈黙を貫くことにした。話題が浮かばない事の言い訳なのか何なのかよくわからないが、それは事実であることには違いない。 「これからどこに行くの。」と彼女が恥ずかしそうに言った。それは何となくいやらしいことを考えさせる質問だったし、なるべく意識していないように努めているけれども、彼女もそのことについて多少は考えているような気がした。彼女の顔は、告白の時のようにまた赤くなっていた。僕はなんて答えるべきか悩んだ。 「うちに来る?」と僕は聞いてみた。少し声が震えていたかもしれない。 「うん。」彼女はそう答えた。 2人で僕の家へと向かう帰り道を歩いていると、猫が二車線の車道の真ん中からこちら側を見ていた。三毛猫で、その猫はこちらを警戒しているというほどでもなく、また好意を寄せるという気配もなかった。土曜日なので車通りもほとんどなかった。猫はそこから僕ら2人を何気なく観察しているようだった。僕らがそんな不思議な三毛猫を見ているしばらくの間、猫はずっと動かずに神社のこま犬のようなお座りの姿でこちら側を見ていた。ただ僕らに対して強い関心があるようには見えなかったので、何故動かずにこちらを見ているのかよく分からなかった。だからなんとなく、その猫は道の真ん中から眺める景色が好きなのだろうと僕は思った。     
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