童貞を捨てた、あの日の空

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彼女が猫に近寄ろうとした瞬間、興がさめたといったように猫は道の向こう側に顔を向けてとぼとぼと歩いていった。 普段は母か父が運転する車からか、あるいは自転車からこの道の景色は見ることはあるが、あの猫のように立ち止まって道の真ん中から見た景色はどんなものなのだろうかと少し思った。誰もがただ通り過ぎるだけの道。けれどもそこには、そうではない別の可能性が猫によって暗示されたかのようで、何か不思議な感覚がよぎった。 歩きながら彼女を見た。彼女のロングの黒髪がさらさらと風に揺られていた。彼女の髪は綺麗だと思った。シャンプーの香りまではしないだろうけど、健康的な少女の匂いがしてきそうな気がした。家に着いたらこの髪に触れ、できることならばその匂いについても確かめたいと思った。なんだか心拍数が上がって、期待と焦りが混じり合った自分ではコントロールできない感情に支配されつつあることを感じていた。     
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