童貞を捨てた、あの日の空

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家に着いた時には、心臓の鼓動はさっきよりももう一段階早くなっていた。とりあえず黙っている彼女に椅子に座ってもらい、冷蔵庫の麦茶を2つのグラスに注ぎ、彼女の元へ運んだ。2人で黙って冷たい麦茶を飲んだ。僕は、少し暑いからクーラー付けるね、と言い、クーラーを付けた。涼しい風が沈黙する2人の間を抜けた。クーラーのスイング機能がこれ程気になったのは生まれて初めてだった。 「あのさ、君の部屋って元は恭ちゃんの部屋なんだよね。」と彼女は言った。僕が「そうだよ。」と答えた。恭ちゃんというのは姉のことだ。彼女は彼女の1つ年が上だった姉と小さい頃は仲が良く、子供の頃はよくここに遊びに来ていた。彼女は今では僕の1つ上の先輩に当たるわけだが、小さい頃はそんな事に関係なく、自分と姉と彼女の3人でよくテレビゲームをやっていた。お互いの母親同士の仲が良かったので、彼女はこの家に泊ったりしたこともある。 「ちょっと見に行ってもいいかな。」と彼女は聞いてきた。「うーん、まあ、いいよ。」と僕は答えた。 部屋に行くと彼女は、「あんまり変わらないね。」と言った。そういえば、中学頃からはあんまり彼女と姉は交流がなかったように思う。中学、高校ともなると年の違いを超えて仲良く遊ぶというのはなかなか難しかったのかもしれない。     
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