童貞を捨てた、あの日の空

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「あのレースのカーテン、同じだね。」と彼女が指を指すレースカーテンは、姉のお下がりで、握りこぶしくらいの手描きで描いたような少しいびつでカラフルな丸い形が、いくつもランダムに時々重なり合ったりしながら配置されていた。僕は退屈な時に何色あるか数えてみたことがあったが、7色だった。赤、オレンジ、黄色、緑、青、濃い青、紫の7色。 彼女がそのレースカーテンを見たまま、急にびっくりすることを言った。 「君はキスしたことある?」 僕は、ないです、と何故か敬語で答えてしまった。彼女の方はどうなのか気になったけれど、それを聞く前に彼女の方が先に口を開いた。 「キスしよう。」 僕は急な展開にどうしていいのかわからず、自分の足元をじっと見つめていることしかできなかった。 「とりあえずそこのベッドに座ろっか。」と彼女は言い、ひとりで勝手に僕のベッドに腰掛けた。 僕はマジか、と思い、しばらく思考停止していた。このまま停止していてはマズイと思い、ぎこちない動作で彼女の隣に座った。ベッドが少し軋んだ。 彼女の方から僕の手にそっと少しだけ触れて、それから手を重ねてきた。彼女は目を閉じて待っているように見えた。想像以上に心拍数が上がった。もう覚悟を決めるしかない、と思った。キスの仕方なんて分からないがとにかく唇と唇をくっつければよいのだ。もうそんなことしか考えられなくなって、それだけで頭がいっぱいになった。     
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