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 仕事帰りの浅見を待つ間、俺は眠った。  電話を切ってからしばらくはドキドキしていたが、その後急に緊張から解き放たれたような感覚になった。何となく開き直ったというか、そういう感じなのかもしれない。浅見に対する憎しみがないことに気付いたら、急に力が抜けたのだ。  とりあえず、会って文句の一つを言ってやりたい。そして二度と俺を抱くなと突き付けて、ただの上司と部下に戻りたい。  それだけをすればいいのだと思うと、妙な高揚感すらなくなって、ただ疲れた身体だけが残った。疲れているのになぜか妙に覚醒していた頭も、急にスイッチがオフになったようだ。俺は帰ってきたときの格好のまま、重い瞼に逆らえずに泥のように眠った。  そんな俺がうっすらと目を覚ましたのは、インターホンが何回か鳴ったときだった。微睡みの中で聞こえる機械音に再び目を閉じてしまいそうになったが、「頼さん」という近所をはばかり抑えたような声が聞こえたので意識が現実世界に戻ってきた。  辺りは既に薄暗くなっていた。日中帰ってきたときのままなので、当然電気も点けていないしカーテンも閉めていない。いつもは気付かない時々通る車のヘッドライトの明かりさえはっきりとわかった。
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