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「…………だから、抱いたというのか?」  思わず声が震えた。  諦めきれない、それならどうしてその思いを言葉だけで伝えようとしてくれなかったのか。睨み付けるように浅見を見つめた。  肉体を弄ばれて、俺は快感の渦に飲み込まれた。そう、好きな人の顔もいつの間にか消えていて。浅見だけでいっぱいになった。間違いなく、あのときだけは俺は浅見だけのものだった。  だけど、それはそのときだけのもので。結局、俺の心はまだ結城部長を忘れられずにいる。浅見の、力で捩じ伏せる方法は正しいと思えない。 「……違いますよ」  睨む俺に怯むこともなく、浅見は俺の目をじっと見つめている。  そんな自信満々に、何が違うと言うの? 「……あのときは、頼さんを僕で満たしたかったんです。どうせ振り向いてもらえないなら、怒りや憎しみみたいな負の感情でもいいから、あなたの中を僕でいっぱいにしてしまいたかった」 「…………どちらにせよ、身勝手な理由だ」 「そのとおりです。僕は身勝手で、最低な男です。それはよくわかっています」  浅見は眉をひそめながら自嘲気味に笑った。
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