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「……だから、僕はもうあなたを抱いたりしません」 「え……」 「頼さんが僕を嫌いになれないのは、少年の頃の僕を知っているからだ」  浅見は寂しそうに僅かに広角を上げて微笑んだ。 「……きっと頼さんは苛められて苦悩してた僕を知っているから嫌いになれないんです。それだけなんです。今キスして、それを確信しました。……だから、そんな優しい頼さんにつけこむのはもうこれっきりにします。傷つけてしまって、本当にごめんなさい」 「…………浅見」 「僕は頼さんが好きです。だから、もう心のないキスも、セックスもしません」  俺が言葉を返せないでいると、浅見がすくっと立ち上がった。 「……それだけです」  今度はいつもの完全無欠な笑顔になった。まるで貼り付けたような好青年のテンプレートの、感情のない笑顔だった。 「……明日からよろしくお願いします。柏倉部長(・・)」  浅見は一つお辞儀をして、玄関の方へ向かい歩きだした。
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