2626人が本棚に入れています
本棚に追加
/292ページ
――――俺たちは、何も知らないんだ。
食べ物の好みも、コミュニケーションの取り方も、お互いの本当の性格も。そう、俺たちは何も知らないまま。
その前に身体を重ねてしまったから、こんなに拗れてる。
本当の浅見って――――?
またスマホの着信履歴を見つめる。5年前から登録されていた、つい最近まで忘れていた名前。
俺の知っている5年前の浅見は、頭が良くて、綺麗で、精神的に強くて、だけどどこか冷めてて。
今は美しさに男らしさが加わった上に、好青年の仮面を被るのが上手くなった。そしてやっぱりどこか冷めている。俺を抱いたときの激しい熱情と、時折見せる冷めてる寂しげな表情との差が大きい。俺にはよくわからない、得体の知れない存在。だから少しだけ、怖い。
そんな男だから、まさかこんなことをしてくるとは思わなかった。
これも計算なのか……? 信じられなくてそんなことを思ったりもするけれど、たぶん違うんだろう。
浅見もきっと、戸惑っている。何もかも手に入れてきた男だからこそ、もがき逃げていく俺という存在に。
「……何で、何で俺なの……」
思わずそう呟いて、俺は袋に入っていたスポーツドリンクを半ばやけくそに飲み干した。
最初のコメントを投稿しよう!