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 柏倉頼という人は、すぐに手に入りそうで手に入らない。  すぐ目の前にいるし、激しく拒みもしない、俺を嫌いになったりしない。  だけど、彼は決して俺を愛したりしない。拒まないだけで、受け入れている訳ではないのだ。  それは逆に、彼が肩書きや能力、見た目とかそういったものだけで俺を計っている訳ではないということなのだろうけれど。  自惚れでも何でもなく、本当に俺が微笑むだけで女の子は靡いた。いとも簡単に、みんな俺を好きだと言った。  それはもう、笑っちゃうくらい簡単で。男女の愛なんて、簡単で脆いものだと思った。  ――――だけどね、そんな簡単で脆いものに俺の家族は壊されてしまった。 「ねぇ、律。令さんはどこ……?」 「……お母さん、言ったじゃないですか。お父さんは仕事が忙しいんですよ。仕事が終わったら帰ってきますから」 「そうね、令さん忙しいもの。令さんは大臣だもの。内閣の中核を担ってるのよ」 「そうです、だから気長に待っていましょう? ね?」  母の心はもうだいぶ前に壊れている。父がもうとっくに大臣ではなくなったことも、この家に帰ってくることがないことも、もうわからない――――。
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