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 野心家だったはずの父が足を踏み外してから、もう2年になる。父が失脚していくのと同時に、俺も母も転落していった。  2年前まで、父である浅見令は飛ぶ鳥を落とす勢いの快進撃を続けていた。幼い頃から優秀で、東大を出て官僚となり、結婚してから満を持して国会議員になった。  父は、自分の妻であろうが何であろうが利用できるものは何でも利用した。俺の母の実家は地元では有名な資産家だったから、その援助を得て地元で確固たる地盤を作っていった。選挙になれば常にトップ当選、外務大臣として長く内閣の中枢にいた。  父には隙がなかった。弁は立つし、どんな問題にも毅然と対応できる。とにかく議員として優秀であることは間違いなかった。さらには美しい顔立ちと男らしさを兼ね備えた背の高い抜群のスタイルも持っていた。  そして、相当な野心家だったからだろう。常に清廉潔白を演じていた。支援者や街頭の人たちに惜しみなく笑顔で愛想を振り撒き手を握り、慈善活動にも熱心だった。人気が出ないはずがない。  誰もが父のことを“いずれは総理大臣まで登り詰めるだろう”と言った。大体の世論もそれを信じて疑わなかった。たぶんその時期は、目の前まで来ていたのだと思う。  俺からすれば気味が悪いくらいに完璧な父だった。
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