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 不倫なんて個人の問題――――そんな言い訳は通じなかった。ずっとクリーンなイメージで通してきた父にとってはとんでもないスキャンダルだった。  何しろ、その不倫情報を週刊誌にリークしたのは他でもない、父の不倫相手の女である。リークの理由は、“もう隠れていたくないから”。その女は父より二十も若くて、俺の方が年が近いくらいだった。仕事も水商売とかそんなんじゃなくて、普通のOLだって言うんで、尚更父が本気なんじゃないかって話題になった。  すぐに父のブレーンである秘書たちを含めた家族会議が行われた。このときは、まだこのスキャンダルによる傷口はそれほど深くないと思われていた。変な話、議員の不倫などそう珍しくなかったし、他の火種(野党議員のスキャンダル)を投下してやればいいくらいの感覚だった。  第一秘書は、小刻みに震えて唇を噛む母に言った。 『議員の妻らしく堂々と構えて許しましょう。そして世間に謝る姿を見せるのです』  確かにそれは正解だった。他ならぬ一番の被害者である妻が許しているのだから世間が騒ぐ必要はありません、家庭の問題です、と切り抜ける。よくある手法だ。  俺はまたいい子を演じればいいのだろう。大学でも知らん顔、気にしていない顔をすればいい――――そう思っていた。  しかし、予想外の出来事が起こった。
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