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――――だけど、俺だって人間だ。
自分で自分の人生を歩んでみたい、そう思ってしまった。俺の心には頼さんがいたから。
『……おまえは、強いなぁ』
『そうでしょうか?』
『うん、強いよ。俺なんかより、ずっと……』
頼さんが、俺のことを強いと言ったから――――俺は誰よりも強くありたいと思った。
頼さんとの思い出に縋らなければ、俺だってとっくに心を壊していただろう。
俺は、真っ直ぐで強い頼もしい頼さんが大好きで。
子どものように屈託なく笑う、大人の頼さんが大好きで。
頼さんに再び会えることをだけを目標に、俺は生きてきた。
父のことも母のことも、父が失脚したら急に離れていった人たちのことも、見た目だけで近付いてくる人たちも、みんなみんな、思い出の中の頼さんの笑顔が忘れさせてくれた。
こんなの俺の身勝手な片想いで、狂気じみていることはわかっている。だけど、それでも俺は頼さんが好きなんだ。俺が生きる糧は、もう頼さんだけなんだ。
不安にならないよう微笑んでから母の手を離し、踵を返した。
スマホに登録されている頼さんの電話番号を見る。俺にはこれしかない。頼さんの写真すらない。俺はずっと記憶の中の頼さんとこの電話番号だけで自分を奮い立たせてきたのだ。
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