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 俺は頼さんの手首を縛った。  本心をわからせてあげる。本当は苦しさから逃れたくて、忘れたくて堪らないくせに――――  ただただ身勝手な理由をこじつけて頼さんに貪りついた。  だけど、頼さんが抵抗を止めて俺を見上げてきたときに、俺は心底自分自身が嫌になった。  頼さんの目は、恐怖とか軽蔑とかそういうのを超えて、悲しさに満ちていた。悲しげに俺を受け入れようとしていた。好きな人を忘れられもしないのに。俺を好きになることもないのに。頼さんは俺を止める術はないのだと悟って、俺の欲望の渦に飲まれようとしていた。  馴染みの少年の変わり果てた欲望まみれの姿を、どういう気持ちで見つめていたのだろう?  俺は頼さんの信頼を失ったのだとそのときに気付いた。  だらりと手足の力を抜いた頼さんの、悲しげに揺れる瞳。  なぜだか俺の方が泣きたくなった。  頼さんの心に俺はいないの? 何をしても俺の存在はすぐに消えてしまうの? せめて最後まで突き飛ばすなり殴るなりして抵抗してよ。頼さん、強いんだから。俺を守ってくれたあの強さは、どこに消えたの?   俺の身体は、いつの間にか頼さんより大きくなってしまっていた。
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