20/23

2626人が本棚に入れています
本棚に追加
/292ページ
 それから俺は現実と向き合うしかなかった。  やっぱり父は戻ってこないし、母の心は壊れてる。そして、頼さんからの信頼を全て失って。  せめて俺ができることは、仕事に邁進することだった。  刑事になりたい、というのは前から決めていた。俺にとっての警察官の見本は頼さんだったから、頼さんと同じような刑事になりたいと思うのはごく自然な流れたった。一番やりがいがありそうだと思ったし、“強さ”の象徴である気がしていた。  頼さんにはもう人として信頼はしてもらえない。それならせめて、仕事では信頼してもらえるようにならなくては。早く仕事を覚えて一人前になりたい、知識だけじゃなくてとにかく経験を叩き込みたい、それだけだった。  二度と近づくなと言われたけど、同じ職場でそれは不可能だ。ホテルで泣いていたときは、死んで詫びるか仕事を辞めるしかないとも思った。でも、どれを選んでも頼さんは怒る気がした。勝手な俺の思い込みなのかもしれないけれど。  俺は刑事課長に直談判することにした。勤務時間外に刑事の仕事をやらせてもらいたいとお願いする。雑用でも何でもいい。頼さんが目に入ることもあるだろうけど、特別な感情は抜きで仕事に集中しよう。そうすれば、いつかは仕事だけでも信頼してもらえるかもしれない。
/292ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2626人が本棚に入れています
本棚に追加