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そうか、恨みじゃなくて恐怖か――――それは予想していなかった。
頼さんの表情に恐怖の感情しかなかったのは、俺を嫌いになれなくて恨むことができなかったからだろう。希望的観測でもなくて、頼さんはそういう優しい人だとわかっているから、そう思うのだ。少年時代の苛められていた俺を見ているから、きっと嫌いになれない。
だからこそ、そんな優しい頼さんを苦しめている自分が許せない。俺に対して恨んだり嫌悪感を持てたなら、頼さんはもっと冷たくなれるし楽になる。頼さんにそれをさせない俺自身が憎くて仕方ないよ。
だけど、頼さんの電話番号は消せなかった。俺が縋れるたった一つの希望だったから――――。
スマホをポケットにしまい玄関ドアの前で振り返ると、母が微笑みながら口を動かし手を振っていた。“官僚”の仕事に行く俺にいってらっしゃいと言っている。俺は笑顔で手を振り返した。
――――お母さん、これから僕は“警察官”の仕事をしてくるよ。
いつかそう言えたらいいな。俺は時々そういう叶わない夢を見る。
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