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浅見は一礼して颯爽と部屋を出て行った。
ふぅと俺が溜め息を吐くと、武川もそれに倣ったように一つ息を吐いた。
「……しっかし……何ですか、あれは」
「何が?」
「浅見ですよ、浅見。なに、あの落ち着き。本当にアイツ新人ですか? 俺の新人の頃とは大違いだ!!」
「……まぁ、アイツは制服忘れてきたりしねぇだろうな」
「俺が新人の頃の黒歴史はいいんですよ!!」
「自分が言い出したんじゃねぇかよ」
俺のツッコミに武川が吹き出した。思わず俺も笑ってしまう。
「いやぁ、それにしても完璧な人間っているんですね。全く隙がない。身のこなしや喋り方もそうだけど、見た目も。こんなに暑いのに、長袖のYシャツ姿で汗一つかいてないですよ」
9月の終わりだってのになかなか涼しくならない。
今、俺たちは“強盗事件対策室”とは名ばかりの、あまり冷房の効かない普段は物置に使われてる小部屋に押し込まれている。俺と武川は半袖のYシャツのボタンはだらしなく二つ開けて、足元はサンダル履きでうちわを扇ぎながらパソコンや書類に向かっている。
それに比べて浅見は、真っ白なシワ一つない長袖のYシャツを着こなしながら何とも涼やかな顔で黙々と雑用をこなしているのだ。
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